「花見の仮面」（横溝正史） | ラバン船長のブックセイリング

人形佐七捕物帳013

お粂が佐七に代わって大冒険大活躍

「花見の仮面」（横溝正史）
（「完本人形佐七捕物帳一」）
　春陽堂書店

花見の幕の中から出てきた
仮面の男。その直後、
ただならぬ男女の悲鳴が聞こえ、
幕の中では大店の旦那が
血反吐を吐いて死んでいた。
毒殺されたらしい。
仮面の男が
下手人かと思われたが、
男は後日、助けを求めて
佐七を訪れる…。

横溝正史の人形佐七捕物帳
第十三話｢花見の仮面｣です。
どう見ても仮面の男が下手人としか
考えられないのですが、その男は
佐七に助けを求めてくるのです。
男は果たして下手人なのか、
それとも冤罪を
着せられそうになっているのか、
佐七の活躍が光る一篇です。

【捕物帳〇一三｢花見の仮面｣】
越後屋治右衛門
…穀物問屋の旦那。
　花見の最中、毒殺される。
お藤
…治右衛門の娘。美人。
　治右衛門毒殺の際、そばにいた。
お玉
…治右衛門の亡妻の姪。美人。
　治右衛門毒殺の際、そばにいた。
山形屋加兵衛
…治右衛門と縁続きの旦那。
弥吉
…越後屋の親戚筋の金物店の手代。
　治右衛門に酒を勧めた仮面の男。
　佐七に相談に訪れる。
　お藤の婿となる話がある。
芝園梅渓
…新興宗教はだら教教祖。
　三十二、三のいい男。
　お藤･お玉･加兵衛ははだら教信者。
滝野川の忠太
…上野あたりを縄張りにしている
　岡っ引き。
辰…佐七の乾分。
お粂…佐七の女房。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。

完本人形佐七捕物帳一

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今日のオススメ！

本作品の味わいどころ①
仮面の男は真犯人かそれとも無実か
佐七を頼って現れた男･弥吉は、
自分が治右衛門を
殺害したのではないかと
疑われていること、
さらには自らが仮面の男であることを
打ち明けるのです。
下手をするとそのまま捕縛され、
きつい取り調べを受ける可能性のある
立場なのです。
佐七の評判を聞きつけて現れた
この弥吉、果たして真実は？
事件の真相を探ることこそ、
本作品の第一の
味わいどころとなっています。

本作品の味わいどころ②
いつの時代も新興宗教の魔の手あり
前世紀終わりにも、
○ーム真理教の騒動がありましたが、
本作品にも怪しい新興宗教
｢はだら教｣が登場します。
ということは、
本作品が書かれた昭和初期にも、
そして本作品の舞台の江戸時代にも、
騒動を巻き起こす新興宗教が
存在していたのでしょう。
果たして美男子教祖･芝園梅渓は
悪の権化なのか？
それとも真の救済者なのか？
組織の正体を探ることが、
本作品の第二の
味わいどころとなっています。

本作品の味わいどころ③
お粂が佐七に代わって大冒険大活躍
その怪しい組織に
潜入捜査を試みるのですが、
その役目は佐七でもなく
子分の辰でもなく、
なんと女房のお粂なのです。
お粂はまだ二十四の瑞々しいいい女。
イケメン教祖を探るには
もってこいというところなのでしょう。

ところが、そのお粂が、
朝になっても夜になっても
帰ってこないから大変です。
佐七も真っ青になって
事態打開に動きます。
潜入捜査が大成功しているのか？
それとも身元がばれて殺害されたのか？
いやいや油断して
手籠めにされてしまったのか？
女房お粂の
大冒険大活躍(と佐七の狼狽ぶり)が、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。

さて、本作品はそのお粂が初登場した
第三話｢歎きの遊女｣から
ちょうど一年後、
出会いを果たした同じ場所で起きた
殺人事件なのです。
一年たってもまだお熱い二人の姿も、
しっかりと味わいたいものです。